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横浜地方裁判所 昭和57年(ワ)2611号 判決 1984年4月26日

原告

佐藤実

原告

持橋多聞

原告

日和田典之

右原告ら三名訴訟代理人

野村和造

鵜飼良昭

柿内義明

千葉景子

福田護

被告

日本鋼管株式会社

右代表者

金屋實

右訴訟代理人

高井伸夫

高島良一

安西愈

加茂善仁

補助参加人

日本鋼管重工労働組合

右代表者中央執行委員長

景山一男

右訴訟代理人

大室征男

主文

一  原告らと被告との間に労働契約関係が存在することを確認する。

二  被告は、

(一)  原告佐藤実に対し金一一八九万四二二七円を、原告持橋多聞に対し金一一四九万〇六〇二円を、原告日和田典之に対し金九九〇万四六八三円を、

(二)  昭和五九年二月以降毎月二二日限り、原告佐藤実に対し金一八万五〇四五円宛を、原告持橋多聞に対し金一八万一〇四一円宛を、原告日和田典之に対し金一五万八五九三円宛を、

それぞれ支払え。

三  訴訟費用中、補助参加によつて生じた費用は補助参加入の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、主文第二項(一)に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項同旨。

2  主文第二項同旨。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第二項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は資本金約一五三〇億円、従業員三万四〇〇〇名を擁する鉄鋼・重工業・造船メーカーであり、横浜市内に従業員数約四五〇〇名の鶴見製作所を有している。原告佐藤実(以下「原告佐藤」という。)は昭和四六年九月被告と労働契約を結び被告鶴見製作所造船部組立班に、原告持橋多聞(以下「原告持橋」という。)は同四二年一二月被告と労働契約を結び右鶴見製作所修繕部船装班に、原告日和田典之(以下「原告日和田」という。)は同四九年六月被告と労働契約を結び右鶴見製作所造船部船装班にそれぞれ所属し就労していたものである。

2  被告は昭和五四年三月二七日以降原告らとの間に労働契約関係があることを否定し、その就労を拒否している。

3  被告の原告らに対する賃金の支払方法は毎月一日から末日までの分を翌月二二日に支払うものであるところ、昭和五四年一月から同年三月までの一か月当りの平均賃金は原告佐藤については一四万二三七一円、原告持橋については一三万八二〇九円、原告日和田については一二万〇三三七円であつたが、同五四年、同五五年、同五六年、同五七年にそれぞれ賃上げが行われたため、原告らが毎月受けるべき月例賃金は別紙(一)ないし(三)記載のとおりとなつた。また、被告は従業員に対し毎年夏期、冬期にそれぞれ一時金を支払うとともに、四月から翌年三月までを上期と下期に分けたうえ上期の奨励加給金を一一月に、下期の奨励加給金を五月にそれぞれ支払つているが、原告らが毎年受ける一時金、奨励加給金の額は別紙(一)ないし(三)記載のとおりである。そこで、原告らが昭和五四年五月から同五九年一月までに被告から受くべき月例賃金、一時金、奨励加給金の合計(ただし昭和五七年一〇月から同五九年一月までの分については月例賃金のみ)は原告佐藤については一一八九万四二二七円、原告持橋については一一四九万〇六〇二円、原告日和田については九九〇万四六八三円となる。

4  よつて、被告に対し、原告らは労働契約関係の存在の確認並びに原告佐藤は未払賃金一一八九万四二二七円及び将来の賃金として昭和五九年二月以降毎月二二日限り一八万五〇四五円宛の、原告持橋は未払賃金一一四九万〇六〇二円及び将来の賃金として昭和五九年二月以降毎月二二日限り一八万一〇四一円宛の、原告日和田は未払賃金として九九〇万四六八三円及び将来の賃金として昭和五九年二月以降毎月二二日限り一五万八五九三円宛の各支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3のうち被告における賃金支払方法、原告らの昭和五四年一月から三月までの一か月当り平均賃金額は認める。原告らが昭和五四年三月二七日以降も被告に対し賃金請求権を有することは否認するが、仮に原告らが右以降も引続き被告の従業員であるとすれば計算上その主張の如き賃金、一時金、奨励加給金を受くべきこととなることは認める。

4  同4は争う。

三  抗弁(被告及び補助参加人)

1  補助参加人は被告重工造船部門の従業員(主任部員以上の社員を除く。)をもつて組織されており、鶴見造船支部、浅野船渠支部、清水造船支部及び津造船支部を設け、産業別労働組合である全国造船重機械労働組合連合会に加入している。原告佐藤及び同日和田は補助参加人鶴見造船支部(以下「鶴見支部」という。)に、原告持橋は同浅野船渠支部(以下「浅野支部」という。)に所属する組合員であつた。

2  被告が補助参加人と締結している労働協約第五条には「所を勤務地とする社員はつぎの各号の1に該当する者を除き組合員とする。1 主任部員およびこれに相当する職にある者2 特定の業務に従事する一部の部員3 その他会社と組合が除外を適当と認めた者」と定めている。右条項は、労働者が補助参加人の組合員であることを雇用継続の条件とするいわゆるユニオンショップ協定であるから、被告は、補助参加人から脱退した者または除名された者を解雇する義務を負う。もつとも同協約第六条には、「会社は組合から除名された者を解雇する。但し、会社から解雇につき重大な異議あるときは組合と協議する。」とだけ規定し組合から脱退した者の解雇については規定していない。しかしこのような規定となつたのは、ユニオンショップ協定がある場合には脱退はあり得ないと考えていたからであつて、特に脱退した者は解雇しないという趣旨のものではないことは明らかであるから、非組合員は雇用継続の資格条件がないというユニオンショップ協定の本質に鑑み、被告は補助参加人から脱退した者をも解雇すべき義務を負う。

3  補助参加人は、昭和五四年二月、当時の深刻な造船不況を克服するため、被告から提案されたいわゆる「緊急人員対策並びに労働諸条件の改訂」に対し「雇用を守る」という基本方針に則り慎重に全職場での職場討議により全組合員の意向聴取につとめると共に、組合員の利益擁護の立場で労使交渉に臨んでいたか、原告らはこのように補助参加人がかつて経験したことのない重大問題を抱え被告と慎重な協議を交わしている最中に、組合規約一四条及び一五条に基づく権利の行使或いは義務の履行を全くせず、突然に「補助参加人は被告の合理化計画に協力し積極的にその推進を図つた」と称し、補助参加人から一方的に脱退する旨通告してきた。原告らの右行動は、組合民主主義に基づいた組合員としての権利義務を果たしたうえでのやむにやまれぬ行動ではなく、前述の如き造船産業の構造不況の中における設備削減、余剰人員の発生という組合員の団結維持が最も必要とされる時期において、雇用調整をぎりぎりの接点で受け止め耐え抜こうとしている他の組合員にとつて、まさに敵前逃亡に等しい全組合員を裏切る反組合的分派行為といわなければならない。原告らは組合脱退の意思表明後、当該支部執行部からの説得、慰留にもその応待すら拒否し、加うるにその後開催された組合制裁委員会の出席要請、脱退理由の説明要請をも無視し続けたのである。もしかかる原告らの行動が団結の自由の名の下に法的に容認されることになれば、団結によつてのみその使命を果し得る労働組合の存立そのものが否定される結果となる。そこで補助参加人は、同五四年三月一〇日開催された第九回臨時大会において、原告らの行為は組織の破壊、分裂を意図した分派的行為であるとし、出席者数一五二名中一五二名の満票により除名を決定し(以下「本件除名処分」という。)、右処分は同月二六日ころ確定した。

4  被告は補助参加人から本件除名処分の通告を受けたので、同月二七日本件ショップ協定に基づき原告らに対し原告らを解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。

仮に、原告らの補助参加人からの脱退が有効であるとしても、原告らと補助参加人との間のユニオンショップ協定の趣旨が前述のとおり補助参加人からの脱退者に対しても被告は解雇すべき義務を負うものである以上原告らに対する右の解雇の意思表示もまた有効である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2のうち、労働協約第五条、第六条の規定の存在することは認めるが、その内容が被告らの主張の如き趣旨であることは否認する。

3  同3のうち、補助参加人がその主張の日に原告らを除名処分に付し、これが確定したことは認める。

4  同4のうち、被告が原告らに対しその主張の日にユニオンショップ協定に基づいて解雇の意思表示をしたことは認めるが、解雇の効力は争う。

五  再抗弁

1  原告らはいずれも補助参加人の組合員であつたが、原告佐藤は、昭和五四年二月九日、他の組合員三名とともに総評全日本造船労働組合(以下「全造船」という。)日本鋼管鶴見造船分会(以下「分会」という。)を結成し補助参加人に対し同日付で脱退する旨の意思表示をなし、原告持橋及び同日和田は同月二八日それぞれ分会に加入するとともに同日付で補助参加人に対し脱退の意思表示をした。

2  ところが補助参加人は、原告らの脱退は組合の団結と存立にかかる重大な挑戦であり制裁規定第四条一項に該当するとして、同年三月二六日原告らを除名処分にしたのであるが、被告はこれを以つて補助参加人との労働協約第六条のユニオンショップ協定(以下「本件ショップ協定」という。)に該当するとして原告らに対し同月二七日付で解雇する旨の意思表示をした。

3  しかし、本件のような態様の組合脱退・除名については本件ショップ協定の効力は及ばないものであり、また補助参加人による本件除名処分は何ら効力を有しないものであるから、被告の原告らに対する本件解雇は無効である。すなわち、

(一) 本件解雇は補助参加人が原告らを除名したことをもつてなされたか、補助参加人の組合規約には自由意思に基づく脱退についての制約規定は存在せず、したがつて原告らの補助参加人からの脱退はいずれも脱退の意思表示が補助参加人に到達した時点で発生しており、その後になされた本件除名処分は何ら効力を有しない。したがつて右除名処分を前提とする被告の解雇の意思表示もまたその効力を生じないものである。

(二) 被告らは、本件ショップ協定は組合脱退者にも及ぶと主張するが、そもそもユニオンショップ協定なるものは、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失つた場合に使用者をして労働契約を終了させることにより間接的に労働組合の組織の維持強化をはかろうとする制度であり、憲法二八条が労働者に団結権を保障した趣旨にそうものである。しかし憲法二八条は自主性を有する労働組合に対しては平等に団結権を保障し、一つの組合の団結権に他の組合の団結権に対する優越する効力を認めているものではないから、本件のようにユニオンショップ協定を締結している労働組合の組合員が右組合を脱退した後直ちに他の労働組合に加入しあるいは新しい労働組合を結成した場合においては、右脱退組合員に対してはユニオンショップ協定の効力は及ばないものというべきである。したがつて補助参加人からの脱退者たる原告らに対する本件ショップ協定の効力が及ぶとする被告らの主張は失当である。

六  再抗弁に対する認否(被告及び補助参加人)

1  再抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3は争う。

七  被告及び補助参加人の反論

1  手続の違法による脱退の無効

補助参加人の組合規約は組合員の資格喪失に伴う脱退手続について明文をもつて手続を定めている。すなわち組合規約一二条は「この組合の組合員が前条の定めにより組合を脱退しようとする時は別に定める脱退届を提出し、支部執行委員会の承認を受け支部執行委員長を通じ、中央執行委員会の承認を得なければならない。」として脱退手続について所定の脱退届を提出することを要件の一つとしている。しかるに、原告佐藤は昭和五四年二月九日補助参加人鶴見支部に「組合鶴見造船支部から脱退する」とのみ記載した内容証明郵便を届けたに過ぎないし、原告持橋は同月二八日補助参加人浅野支部執行委員長宛に全造船に加入し、同時に分会に加入したので組合を脱退する旨の内容証明郵便を、原告日和田は同日鶴見支部執行委員長宛に同文の内容証明郵便をそれぞれ送達したに過ぎない。

右のとおり、原告らは適式な脱退届も提出しないしその理由も何ひとつ明らかにしないのであるから、原告らの補助参加人からの脱退は何ら有効になされていないのである。

2  団結権の侵害による脱退の無効

(一) 労働組合は結社の自由により団結が保障されているのではなく、弱者である労働者がその団結によつて経営者と対等の立場に立つための特別な団結権として保障されたものであるから、組合員の加入、脱退は自由、無制限ではなく、組合の団結権を維持する必要から制約を受けるものである。

労働組合に比して統制のはるかにゆるやかな民法上の組合においても脱退に理由を必要とし、当該組合にとつて不利な時期に組合員が脱退できないとの規定が存する(民法六七八条)。

(二) 原告らは、補助参加人の機関の構成員でありながら機関内において何らの意見の表明もせず、したがつて組合執行部との意見の対立をみたとかの状況にはなかつたのに突如として理由を述べることなく脱退の意思を表明した。その頃補助参加人は前述のとおり深刻な造船不況を克服するため被告から提案された「緊急人員対策ならびに労働諸条件の改訂」に対し「雇用を守る」という基本方針に則り全職場での職場討議により全組合員の意向聴取につとめるとともに組合員の利益擁護の立場で労使交渉に臨んでいたもので団結の維持が最も必要な時期であつたのである。

(三) もしもこのような時期になされた原告らの脱退等の行動を是認するとすれば

(1) 労組法七条一号但書を事実上空文化することとなる。

(2) ユニオンショップ協定締結の前提となつている組合員の総意に基づく機関決定の組合員に対する拘束力を全く否定する結果となる

(3) 労働者が団結意識をもちこれを基盤として結んだユニオンショップ協定の法規範性を無視することとなる

(4) ユニオンショップ協定の非締結組合の団結のみが手厚く保護されるのに対し、締結組合の団結が全く保護されないという不平等な結果を招来する

(5) 組合の機関決定に反対する少数組合員がその統制を免れるため自由に少数組合を結成し、そのためイデオロギーを異にする同志的結合の小集団が無数に生ずることを容認することとなり、このようなことは統一的労働組合の強固な団結体たる組合員有資格者の独占による労使対等決定の原則に反することを容認することとなり、かえつて団結権の侵害となり組合の弱体化を招来する。

など労働組合の本質とその法的地位及び法定機能等からみて、労働経済社会上の健全な公序に著しく反するものとなるのであつて、かかる点から原告らの脱退は補助参加人の団結権を侵害する違法な行為として無効であるというべきである。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1及び2、抗弁1、2及び4の各事実並びに同3のうち補助参加人が昭和五四年三月一〇日原告らを除名したことはいずれも当事者間に争いがない。

二そこで補助参加人の原告らに対する除名並びに被告の原告らに対する解雇の効力について判断する。

1  原告佐藤が昭和五四年二月九日他の三名と分会を結成するとともに補助参加人に対し脱退する旨の意思表示をなし、原告持橋及び同日和田が同月二八日それぞれ分会に加入するとともに補助参加人に対し脱退の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

2  <証拠>によれば、以下の事実を認めることができ、これを覆えすに足りる証拠はない。すなわち、

(一)  被告の不況対策と補助参加人の対応

(1) 我が国の造船業界は昭和四八年秋のいわゆるオイルショックを契機に極度の不況に陥り、この傾向は昭和五〇年代に入つても世界の先進各国が低成長経済に転換したこともあつて益々深刻化していつた。被告においても昭和五三年四月に、①造船部門から鉄鋼部門への一〇〇名の配置転換、②特別社員(五八歳以上六〇歳までの者に対する再雇用制度)の採用を取りやめ、新特別社員(五五歳以上五八歳未満の者に対する再雇用制度)の採用を業務上必要な範囲に限定する、③高出勤率者褒賞制度の廃止を内容とする不況対策を実施した。このような中で政府の諮問機関である海運造船合理化審議会は同年七月不況を打開する対策として既存の造船設備を削減し、被告を含む大手造船企業七社にあつては四〇パーセントの設備削減をするほかにないとの結論に達し、その旨運輸大臣に答申した。

(2) これを受けて被告は同年一〇月鶴見造船所の船台二基のうち一基、清水造船所の船台二基のうち一基、津造船所建造ドック全長五〇〇メートルのうち一五〇メートル分をそれぞれ休止するという造船設備縮小案をまとめた。右縮小案によると、被告新造船設備の四〇パーセントが削減されることになりこれに伴つて必然的に人員整理の問題が生ずるため、被告は同年一二月五日に開催された中央労使経営説明会において補助参加人に対し「超過労働時間ゼロ、社外工依存率ゼロとした場合においても余剰労働人口は約二三〇〇名となる。」旨、したがつてこれに沿つて余剰人員対策を考えざるを得ない旨説明した。

(3) そして被告は同月一三日補助参加人に対し造船部門の設備削減による余剰労働力の対応策として「緊急人員対策ならびに労働諸条件の改訂について」と題する抜本的合理化案(以下「合理化案」という。)を提示した。右合理化案の骨子は、①関連、下請会社への約三〇〇名の出向、派遣、応援、②造船部門から鉄鋼部門へ約四〇〇名を配置転換、③新特別社員制度の運用停止と雇用中の新特別社員の解約、④退職優遇措置による退職者の募集(約一一一〇名)、⑤旅費、賃金等労働諸条件の改訂というものであつた。

(4) 一方補助参加人は、今次の造船合理化は避けることのできないものであると受けとめ、その対策について同年九月開催の定期大会において「『雇用を守る』ことを基本とし、具体的内容は労使の事前協議を貫きかつ職場の理解を得ることを大前提とし、慎重に対処する。」との運動方針を定めていた。そして補助参加人は同年一二月一三日被告から前記の合理化案の提示を受けるや、同月一九日及び同月二一日の中央労使協議会において被告に対し合理化案に関する質問交渉を行つたうえ、同月二四日中央執行委員会を開き右問題について討議した。その結果補助参加人においては被告の合理化案は雇用確保に対する補助参加人の基本姿勢を反映したものとはいい難くきわめて不満であるとして被告とねばり強く交渉することとし、①出向、派遣、応援等については雇用確保にむけての有効な対策として促進をはかる、②鉄鋼部門への配置転換については指名制の改善を求める、③新特別社員制度の運用停止と新特別社員の解雇についてはやむを得ないものとし退職条件の引き上げをはかる、④退職者の募集については被告の造船、鉄鋼両部門に対する総合的かつ積極的な経営姿勢と要員計画を強く要求し、退職募集人員の圧縮を求める、⑤労働諸条件の改訂については造船部門に限り期限付で認めるとの交渉の基本方針を決定し、昭和五四年一月五日から一二日までの間職場討議に付し、同月一三日第二六回臨時中央委員会を開催して右基本方針を全員一致で承認した。

(5) その後被告と補助参加人は同月一六日、一八日及び二三日と中央労使協議会において交渉を重ね、同月二六日には被告から退職者募集数を八七〇名に削減するとの回答がなされた。そこで、補助参加人は同年二月一日代議員会を開き、①退職者募集数は被告修正回答をもつて了承する、②退職者の募集については被告申入れの一般に対するPRと個人面接によることを了承する、③出向、派遣、応援、鉄鋼部門への配置転換及び新特別社員の解約については大綱的に了承するとの「基本交渉の集約と条件交渉における修正案」を決定して、同月六日から同月九日までの間職場討議に付した後、同月一〇日開催された臨時中央委員会においてこれを可決承認した。

(6) 更に被告と補助参加人は同月一五日、一九日、二一日、二三日及び二六日に労使専門委員会を開いて細部について交渉を重ね、被告から同月二七日の労使専門委員会において最終修正回答が提示されたため、補助参加人はこれをもつて交渉の限界と判断して同日代議員会を開き「合理化案問題妥結集約の件」を決定し、同年三月五日から同月九日までの間職場討議に付した後、同月一〇日の臨時大会においてこれを可決承認し、被告との間で協定に調印するに至つた。

(二)  原告らの補助参加人からの脱退と全造船への加入及び分会結成の経緯

(1) 原告らは昭和五三年一〇月以降原告持橋を発行責任者とする宣伝紙「どたぐつ」を発行して被告の人員整理実施に反対していたが、同年一二月一三日被告から合理化案が提示されるや、右「どたぐつ」を通じて不況のしわよせを労働者に一方的に押しつけるものであるとしてこれに強く反対の意思を表明し、合理化案を基本的には承認しこれの修正を目指す補助参加人の姿勢を攻撃していた。

(2) 原告らは、前述のとおり補助参加人が合理化案に関し退職者募集のための個人面接を了承し新特別社員の解約を認めるに及んだことから、補助参加人の方針は雇用確保を第一とする原告らの考え方と相容れないものと判断するに至つた。そこで原告佐藤は昭和五四年二月九日訴外村山敏、同早川寛及び同小野隆とともにその運動方針に共鳴することの多かつた全造船に加入して分会を結成し、早川が執行委員長に、小野が副執行委員長に、村山が書記長に、原告佐藤が執行委員にそれぞれ就任した。

(3) 原告佐藤は同日朝被告鶴見造船所門前において村山、早川及び小野とともに全造船に加入して分会を結成した旨のビラを配付し、村山が同日午前九時ころ補助参加人を脱退したことを鶴見支部執行委員長に伝えてほしい旨同支部に電話連絡した後、原告佐藤は同日村山、早川及び小野とともに鶴見支部宛に「日本鋼管重工労働組合鶴見造船支部を脱退します。」と記載した組合脱退届を内容証明郵便で発送し、右郵便は同日鶴見支部に送達された。

(4) 原告日和田及び同持橋は同月二八日朝被告鶴見造船所門前及び浅野ドック門前において両名が全造船及び分会に加入した旨のビラを配布し、同日午前八時三〇分ころ代理人村山を通じて鶴見支部及び浅野支部に補助参加人を脱退した旨電話連絡した後、同日原告日和田は自己の所属した鶴見支部宛に、同持橋は同浅野支部宛にそれぞれ全造船及び分会に加入し補助参加人から脱退する旨の組合脱退届を内容証明郵便で発送し、右各郵便は同日両支部に送達された。

(5) 分会はこの間同月一二日に機関紙「つるぞう分会ニュース」を創刊して「首切り合理化反対」等の主張を展開するとともに、同月一四日被告に対し団体交渉を申し入れこれが拒否されると同月二一日神奈川県地方労働委員会へ不当労働行為救済の申立てを行つた。

(三)  本件解雇に至る経緯

(1) 鶴見支部は昭和五四年二月九日原告佐藤らが補助参加人を脱退したことを知り、直ちに執行委員会を開催して事態を補助参加人に報告するとともに原告らに脱退の理由を問い質し脱退を思いとどまるよう説得活動を行うことを決定した。

(2) 鶴見支部組織部長蛭間武男は、同月一〇日村山に会い脱退の理由を尋ね説得活動を行つたが、村山は脱退の理由はビラ記載のとおりであるとして説得に応じなかつた。

(3) 更に蛭間は、同月一四日原告佐藤に会い脱退の理由を尋ね脱退を考え直してほしいと説得をしたが、原告佐藤は「いくら説得されても応じるつもりはない。小さな親切、よけいなお世話だ。」としてこれに応じなかつた。

(4) 鶴見支部は同日補助参加人制裁委員会に対し原告佐藤及び村山に関する審理の申立てをなし、これを受けて補助参加人は同日から同月二三日までの間制裁委員会を開催し、原告佐藤及び村山を喚問して事情調査を行おうとしたけれども両名は出頭を拒否した。

(5) 制裁委員会は同月二二日「原告佐藤らの脱退はいわれなきものであり、労働協約の適用を免れることを目的としたものと判断せざるを得ず、制裁規程第四条第一項『組合の組織を破壊し、又は分裂させる目的をもつて行為したとき』に該当する。村山は首謀者で原告佐藤は積極的に行動しているので制裁規程第五条第一項『本規程四条一項及び二項のいずれかに該当した者で首謀者は除名、共同謀議に参画するか又は事実行為で積極的に行動した者は除名又は権利停止』に該当し、そのうえ情状も重いから両名とも除名相当」との裁定を下した。

(6) 浅野支部は、同月二八日原告持橋が補助参加人を脱退したことを知り、浅野支部書記長境隆志が原告持橋に脱退を思いとどまるよう説得するとともに所定の手続をとり脱退理由についても明確にされたいと電話で要請したが、原告持橋は既に脱退してしまつたとしてこれに応じなかつた。一方鶴見支部は同日原告日和田が脱退したことを知り、同日付で同人に対し一方的な脱退通知は認められない旨の内容証明郵便を送付し、翌三月一日前記蛭間が原告日和田に会い考え直し体制内で協力してもらいたい旨説得したが、同人は既に行動を起した後であるとしてこれに応じなかつた。

(7) 鶴見支部及び浅野支部は、それぞれ同年二月二八日補助参加人制裁委員会に対し原告日和田及び同持橋に関する審理の申立てをなし、同委員会は同年三月二日及び同月六日に両名を喚問しようとしたが同人らから出頭を拒否された。

(8) そこで制裁委員会は「原告日和田、同持橋の脱退は、労働協約の適用を免れることのみが目的であり、これは制裁規程第四条第一項、第五条第一項に該当し、そのうえ情状も重いから両名とも除名相当」との裁定を下した。

(9) 補助参加人は、右各裁定をうけて同月一〇日開催された臨時組合大会において原告三名及び村山の除名問題を審理した結果、本件除名処分が満場一致で可決された。

(10) そして同月二六日までに原告らから再審査の申立てがなされなかつたので、補助参加人は、同日被告に対し同月二七日付で本件除名処分の執行をなすので労働協約第六条に基づき原告らを解雇されたい旨申し入れた。これを受けて被告は同日原告らに対し本件解雇の意思表示をした。

3  本件解雇の効力について

(一)  原告らの脱退の効力

(1) <証拠>によれば、補助参加人はその規約において、組合員となるべき者の資格について「この組合は日本鋼管造船・重工部門各事業所の従業員および造船部門各事業所に駐在する本社従業員、その他最高議決機関において、必要と認めた者をもつて構成する。」(第三条)、「この組合の組合員は規約第三条に定めた者とする。但し、次の各項に定めた者は除く。1 主任部員の職分にある者。2 特別社員、準社員、傭員嘱託として採用された者。3 最高議決機関が組合員にすることを不適当と認めた者。」(第八条)と定め、資格喪失につき「組合員がつぎの各項に該当したときは、その資格を失う。1 除名されたとき。2 従業員たる資格を喪失したとき。3 規約第八条ただし書に該当したとき。」(第一一条)と定めているが、組合の脱退については「この組合の組合員が前条の定めにより組合を脱退しようとするときは別に定める脱退届を提出し支部執行委員会の承認を受け、支部執行委員長を通じ中央委員会の承認を得なければならない。」(第一二条)とのみ定めるだけで、組合員としての資格喪失と無関係の組合員個人の自由な意思に基づく脱退については何ら規定を設けていないことが認められこれに反する証拠はない。

然しながら、労働組合は、労働者の自由な意思に基づく結合をその根幹として成立しているものであるから、労働者が自らの意思によりその結合体である当該労働組合から離脱することもまた自由でなければならないものである。したがつて補助参加人の規約にその所属組合員が自由な意思により脱退できる旨の定めがないからといつて組合員の自由な意思による脱退を拒否できるものではない。もつとも組合員の資格喪失に伴う脱退の際に執行委員会の承認を要する旨の規約の存することは前示のとおりであるが、これは組合員の資格喪失という脱退の要件が充たされているか否かにつき単に当該組合員の判断だけに委ねることなく、利害関係を有する組合自体にも判断させ、両者において当該組合員が資格を喪失したことの認識判断に一致をみたときに脱退を認めようという趣旨のものであるから、資格喪失に伴う脱退に関する規約を、組合員の自由な意思に基づく脱退の場合に適用することのできないものであることは明らかである。前掲証拠によると、補助参加人において資格喪失による脱退の場合は、鶴見支部では「脱退届」、浅野支部においては「備闘資金返還請求書」を提出することとなつているが、前叙のとおり組合員が自由な意思により補助参加人を脱退する場合にはかかる資格喪失に伴う脱退に関する手続規定の適用は受けず、当該組合員の脱退の意思表示が補助参加人に到達したときに、脱退の効力を生ずるものとみなければならない。

前示認定の事実によれば、原告佐藤は昭和五四年二月九日鶴見支部宛の内容証明郵便をもつて、原告持橋は同月二八日浅野支部宛の内容証明郵便をもつて、原告日和田は同日鶴見支部宛の内容証明郵便をもつてそれぞれ補助参加人を脱退する旨の意思表示をしていることは明らかであるから、右脱退には何ら手続上において違法はない。

(2) 而して前示認定の事実によると、原告らが補助参加人を脱退する旨の意思表示をした時期は、深刻な造船不況下にあつて補助参加人が被告から提示された合理化案に対し「雇用を守る」との基本方針に則り被告と鋭意交渉中であつて有利な立場を保持するには補助参加人の一致団結が必要であつたことは否定すべくもないが、原告らは、被告の合理化案に対しては絶対反対の立場に立ち、合理化案を基本的には承認してこれが修正を目指す補助参加人とはその闘争の基本姿勢において相容れないものがあつたのでこれと袂をわかち原告らの考えに近い全造船に加入し、その分会を組織することによつて独自に被告との闘争を打ち立てようとして補助参加人を脱退したものであるから、たとえ原告らの脱退により補助参加人においてその団結にひびが入り対被告との交渉で不利な立場に立つことになつたとしても、それは致し方のないものであつて、右の故に本来労働者としての基本的な権利ないしは自由であるべき原告らの脱退を補助参加人の団結権を侵害する違法な行為、或いは権利の濫用として無効と解すべきいわれはない。この理は、原告らの脱退を有効と認めることにより被告及び補助参加人の主張するような結果を招来する(事実摘示欄七の2の(三))ことになるとしても左右されるものではない。

(二)  本件除名処分

よつて、原告らは本件除名処分の前に既に補助参加人から有効に脱退しているのであるから、補助参加人が原告らに対してなした本件除名処分は組合員でない者に対してなされた処分というべく、その効力を生ずるに由ないものである。

(三)  本件解雇の効力

右に述べたように、補助参加人がした原告らに対する除名が効力を生じない以上右除名を前提として補助参加人とのユニオンショップ協定に基づいてなした被告の原告らに対する解雇もまた効力を生じないことは多言を要しないが、被告は、右ショップ協定は、補助参加人の組合員たる資格を失つた者を解雇する趣旨であるから、原告ら補助参加人の脱退者にも右ショップ協定の効力は及ぶ、と主張する。

確かに<証拠>によれば、本件ショップ協定には第六条が、組合から除名された者を解雇すると表現するだけで原告らのように自由意思による組合脱退の場合については明示の文言は見当らないのであるが、元来ユニオンショップ協定は組合員の資格を失つた従業員を使用者として解雇させることによつて組合の団結を維持、強化しようとする制度であるから、この点を強調する限り自由意思による脱退についても他の事由によつて組合員の資格を喪失する場合と別異に解すべき理由はないといえるかもしれない。しかしながら反面、労働者はいかなる労働組合を結成するか、いかなる既存組合に加入するかについて選択する自由を有するのであり、かかる権利ないし自由は労働者の基本的人権ないし自由としてあらゆる面において最大限に尊重されなければならないのである。労働者が所属組合とその理念を異にしもはや組合内にとどまつていては労働者としての権利を擁護する活動ができないと判断して新たに組合を結成し又は他の既成の組合に加入するため所属組合を脱退したような場合は、組合自体の団結権の保持よりも右労働者の基本的な権利、自由を保護すべきものといわなければならない。然らば、本件ユニオンショップ協定も、その文言どおり組合から有効に除名された者に対してのみ被告は解雇の義務を負うものと解釈すべきであつて、前叙の如き原告らの自由意思に基づく脱退について右の「除名」と同一の評価を与え、被告において解雇し得るものと解すべきものではない。

すなわち、被告の原告らに対する本件ショップ協定に基づく解雇は、解雇権の濫用として無効なものというべきである。

三以上によれば、原告らと被告との間には労働契約関係が存在するものというべきところ、前示認定の本件ユニオンショップ協定第六条によると、被告は補助参加人のした除名の当否について判断権がないわけではないことが明らかであるから、補助参加人の申請人らに対する除名を相当とみて同人らを解雇し、その就労を拒否した以上は、解雇無効の場合において申請人らに対する賃金支払の責任は免れないものといわなければならない。而して、原告らが昭和五四年三月二七日以降も被告の従業員たる地位を有するとすれば、被告から請求原因第三項記載の賃金、一時金、奨励加給金を受くべき権利(その支払方法も含む)を有するものであることは当事者間に争いがないから、原告らは被告に対し右同日以降も請求原因第三項記載の賃金等の請求権を有するものと認めざるを得ない。

四以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九四条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(安國種彦 山野井勇作 佐賀義史)

別紙(一) 原告佐藤の賃金計算書

<省略>

別紙(二) 原告持橋の賃金計算書

<省略>

別紙(三) 原告日和田の賃金計算書

<省略>

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